「カツオです。突如現れた甚六さんによって窮地に追い込まれる早川さんだったのですが、僕はそれ以上に女子供には扱えない、『重さ』の象徴である鋼の剣を軽々と扱う甚六さんにどうしようもない『男』を感じ取ってしまうのでした…」


「ぐっ…うぅ…」
「ホラ、もう立ってもいられねーだろ?でもな、お前は『女』の分際で俺に逆らったんだから、この程度は当然の罰だな」
「あぁ…早川さん…」
「ま、死ななきゃ許してやんねーけど。そろそろ終わりにするかね…!」
「は、早川さんの首に鋼の剣が振り下ろされる…ッ!」
「女、失せろ!」
「さよなら、早川さん…!」
「!何ッ!?なんだこれは!?」
「ええッ!?剣が早川さんをすり抜けた!?これは…早川さんの…幻…?僕たちが今まで見ていたのは幻の早川さんだったっていうのか!?」
「…今頃気付いても遅いさね…!」
「馬鹿な!?いつの間に俺の真後ろに!?」
「そっ、そうか!マヌーサだ!幻惑呪文マヌーサだ!!」
「そう…カツオ君、よくわかったわね…」
「女ぁ…貴様、いつ呪文を発動させた…!?いや、それ以前に呪文詠唱はどうした…!?」
「たっ、確かに…!全ての呪文は詠唱によって使用者の精神世界である『内なる世界』と現実の世界である『外なる世界』を繋がなければ発現しないはず…」
「まさか…女、『無言詠唱』が使えるのか…!?」
「…自分の情報を敵に漏らすことは死に繋がる…、私はそう教わっているから安易に自分の情報を漏らすつもりはないけど…、どうせアンタはもう死ぬんだから答えてあげるよ…。そう、私は無言詠唱が使える…。とは言ってもまだ未完成だから一回が限度だけどね…」
「無言詠唱は声にだして詠唱せずとも、詠唱を完了できる技術…。相当高度な技術だって聞いたけど…、早川さん…すごい…」
「成程…それで分かった…。俺に左腕を切り落とされた瞬間に、飛び散る血しぶきに紛れて幻惑の霧を発生させて俺とカツオ君を包みこんだってわけだ…。確かにあの状況なら霧程度の水分には気付けない…」
「さ…お喋りはこれでおしまいさね…」
「…待ってくれ。貴様は何らかの呪文を発動させて俺を殺すつもりだろうが、今のお前の状態でそれができるのか…?魔法使いが呪文を発動させるには精神力の他に体力だって必要とされる…。腕を切り落とされて出血がひどい貴様の状態では、例え呪文を発動できても貴様自身タダでは済まないはず…」
「…休戦協定でも…ウッ…結ぼうってことかい…?」
「そういうことだ…(この女は間違いなくあと一撃で死ぬ。俺には威力は下がるが、高速で攻撃できる技がある。協定を結んで油断したところにあの技を使えば、こいつが詠唱を完了する前に確実に殺れる…。もうこいつに無言詠唱は無いのだから、事前に詠唱されている危険も無い…!)」
「わかった…。そっちの方がお互い利口さね…ぐっ…ううっ…」
「それじゃ…俺の背に押し付けている右手をどかしてくれないか…?」
「あんたも…剣を…鞘…に、入れなよ…」
「オーケイ。俺からだ」
「甚六さんから殺気が消えた…!」
「じゃ私も…」
「(今だ!!)」
「甚六さん!?」
「喰らえ!疾風づ…!」
「やっぱね…」
「がああああああああ!灼けるぅぅぅ!!!」
「ウウウウウ、アアアアアア!!!!」
「ギッ、ギラだ!閃光呪文ギラだ!!早川さんと甚六さんを包み込んでギラが発動してる!!」
「キッ、キッ、貴様、範囲…呪文を…こんな至近距離で…使う…とは…」
「覚悟の上さね…」
「また…無言…詠唱…か…」
「言っただろ…情報は漏らさないって…」
「早川さん、わざと偽の情報を教えたのか…!でも…あの体でギラを発動させて、さらにギラによるダメージまで受けてるんだぞ…!早川さんはとっくに限界を超えてるんじゃないのか…!?」
「女ってのは…男より…硬くもないし…ぐっ…ううっ…速くもないけど…ハァハァ…男より…『長持ち』すんだよ…!」
「ここで俺がッ、終わるわけには…ううううっ…、なっ、流れる、星のごと…く…、ルッ…ルーラ…!!」
「甚六さんがルーラでギラから脱出!?」
「くそっ…ギラの…威力が…足りなかった…か…」
「はっ、早川さん、大丈夫!?しっかりして!!」
「…早川は大丈夫だよ、磯野」
「!ああっ、あなたは!?」